超高精度の温度検知
ウェアラブルの温度モニターにおいて実績あるセンサ技術が貴重な医学的知見を提供する方法とは。
新しい個人用健康モニタリング製品が医療現場とプライベートの両方で人気を集めているのはなぜでしょうか。この重要な質問への答えを見つけるために、まずは次の3つのグローバルトレンドを詳しく見ていきます。
- 今日、ほぼ誰もがスマートフォンを持っており、高性能なコンピューターと常時オンの医療センサハブ、ディスプレイ画面が人々にとって身近なものになっています。
- 高度に産業化された世界中で急速に高齢化が進んでおり、高齢者ほど疾病率が高くなります。同時に、より若い人々の間では、自分の健康寿命を延長する方法を見出すことにかつてなく関心が高まっています。そして今、これらの人々と彼らの医師は、ライフスタイルを最適化し、運動や食事、睡眠、ストレスなどの自分でコントロールできる要素について健康的な選択をするために役立つ新技術を活用することが可能になっています。
- ムーアの法則の魔法によって、半導体技術は、サイズの縮小、性能の向上、コスト削減、そしてコンピューティングやセンシングなど電子機能の消費電力削減を実現し続けています。これは、かつて高価な医療機器の中でしか運用できなかった医療用センサが、安価な携帯型あるいはウェアラブルなデバイスに搭載可能になっていることを意味しています。
これにより、医療機器とコンシューマーデバイス間の境界線があいまいになり、個人がスマートウォッチやライフスタイルを追跡するリストバンド、スマートリング、さらにはイヤホンまで、自分の機器をプライベートで利用して、血圧や心拍数、睡眠の質といった自身の重要な健康やライフサイクルの指標を追跡できるようになっています。
同時に、医療機関は病院内と外来患者にデジタル化した医療の形態を採用し、医師による介入の必要がない、患者の継続的な自動モニタリングを実現しています。スマート皮膚パッチやリストバンド、その他のウェアラブルデバイスが患者データを中央のポータルに継続的にアップロードし、そこで人工知能(AI)アルゴリズムとその他のソフトウェアコンポーネントが測定値をモニタリングして、人間による介入が必要な可能性がある場面で医療専門家に通知します。
深部体温:強力な診断指標
これまでのセンサ技術における進歩は、消費者向けウェアラブルデバイスによる、血圧や心拍数、血中酸素濃度など、さまざまなバイタルサインの医療グレードに近い測定品質達成を可能にしています。
しかし、もう1つのバイタルサインである深部温度が提供する情報は、それがないと特定の診断やモニタリングがかなり困難に、さらには不可能にさえなるもので、深部温度は、例えば女性の妊娠周期やストレス、睡眠の質などの状態を示す非常に正確な指標となります。また、発熱や敗血症の発症を示す早期の警告を提供し、救命につながる場合もあります。
医療分野以外にも、深部体温のモニタリングは、持久系アスリートのトレーニングを微調整するために用いることができ、身体に負荷をかけすぎることなくトレーニングで最大限の成果をあげることを可能にします。
ams OSRAMのセンサポートフォリオの中でこれまで目立って来なかった製品が注目の的になり、今日の市場で増加しつつある深部体温測定が可能な新しいタイプのウェアラブルコンシューマーデバイスや医療機器を実現しています。
例えば、AS6221デジタル温度センサは、超高精度ミックスドシグナル半導体の設計・製造において数十年にわたり蓄積してきた専門知識と知的財産の成果です。ams OSRAMのユニークな能力は、これらの革新的な深部体温測定機器のメーカーが掲げる、他の類似製品よりも高精度で小さく、電力効率に優れているという要件を満たす温度センサを支えています。AS6221は、個人用健康モニタリングの技術を新たなレベルへと引き上げる「隠れたヒーロー」です。
体温測定に最適化
先進的な温度測定の魅力はその精度にあります。AS6221の動作範囲全体-40℃~125℃にわたる最大測定誤差±0.3℃は非常に優れていますが、その精度は医療用途に最適化されていることが特徴です。-25℃~55℃では最大誤差が±0.10℃に低下し、20℃~42℃ではわずか±0.09℃です。標準的な体温は約37℃です。
この極めて高い精度は、パートナー企業のgreentegによるCALERA®テクノロジーなど、新世代の深部体温モニタリングシステム開発に不可欠なものとなっています。これらのシステムは、深部体温を直接測定するのではなく、皮膚温に基づいて熱流束を計算することで動作します。(従来、深部体温は侵襲的なプローブの挿入や高価な錠剤型電子デバイスの服用によって測定されていました。)洗練されたアルゴリズムが皮膚表面での熱流束から深部体温の値を算出します。
皮膚温の直接測定値から深部体温の間接測定値への変換には、固有の誤差があります。皮膚温の測定値が不正確な場合、深部体温の測定値に変換されたときにそれが増幅されます。
つまり、CALERA®テクノロジーのような製品は、皮膚で温度を測定するデバイスに可能な限り最高の精度を要求します。ここで、このセンサの最大誤差±0.09℃という精度の高さがその価値を発揮します。また、サイズも重要な要素で、部品が皮膚パッチやその他携帯型機器での使用に適している必要があります。
アスリートの手首に装着されたgreentegのCALERA®テクノロジーとams OSRAMのVSM(バイタルサインモニタリング)リファレンスデザイン
超高精度温度測定の幅広い用途
この例は、医療従事者や消費者向けの医療用モニタリング、持久系アスリートのトレーニング最適化を支援するスポーツ機器において、温度測定が重要な役割を果たすことを示していますが、他にも数多くの用途があります。
例えば、消防士が着用する安全装備は、体温を追跡し、消防士が危険な過熱状態になると警告を送信する手段を備えている必要があります。危険な状態まで体温が上昇する高体温症も、世界の高温地域では重大なリスクとなりますが、気象危機が平均気温の上昇を招いている中で、より一層リスクが高まっています。スマートウォッチやリストバンドに搭載された信頼性の高いソリューションにアプリケーションソフトウェアを組み合わせ、装着者が危険にさらされているときに救急隊や大切な人にアラートを送信することができます。
正確な温度測定は、他の医療用途でも重要な役割を果たすことがあります。例えば、皮膚パッチによる血糖値の酵素測定には、センサの測定値をリアルタイムで校正するために、正確な温度測定が必要となります。また、温度センサは透析装置や輸血装置、インスリンポンプでも動作し、患者の体温に合わせて血液やインスリンを加熱してから静脈に送り込むことを可能にします。
これらにとどまらず、その他数多くの用途において、極めて高い精度は高い価値を持ち、体温の範囲において、正確さを追求した技術はスポットライトを浴びるにふさわしいものです。