自動車用ヘッドランプにおける驚異的なパフォーマンスのブレークスルー

技術的なブレークスルーは、往々にして科学や工学的なインサイトではなく、ビジョンや思い描いた未来にその原点があります。2010年代初頭、当社のエンジニアの専門家チームにとって、想像力をかき立てるきっかけとなったのは、ある顧客との会話でした。その突拍子もないアイデアが、ピクセル化されたLED光源です。  

当時、LEDは1つの均質なビーム、つまり1つの「ピクセル」を生成する1つのシンプルなチップでした。エンジニアが思い描いたのはまさに未来的なアイデアで、数百、数千の個別のビームで構成される1つのビームでした。ヘッドライトに応用されたこのアイデアは、光に新しい意味を与える可能性を秘めていました。車外の変化する条件にダイナミックに適応できるビーム、そしてメッセージを伝えることができるビームです。

すぐに、このアイデアが持つ潜在的な価値は産業界やエンドユーザーにとって非常に魅力的に映り、小規模ながらも専門の開発グループが立ち上げられました。これにはLEDメーカーからヘッドランプメーカー、自動車OEMまで、バリューチェーン全体からの参加者が含まれていました。 

この先駆的なビジョンが、最終的に2023年のams OSRAM EVIYOS®テクノロジーの発表につながりました。 
EVIYOS® LEDは、自動車ヘッドランプ用のマルチピクセル光源で、道路上に画像を投影したり、ハイビームの一部を選択的に暗くして他の道路利用者に眩しさを感じさせないようにしたりすることができます。また、従来のロービームよりもドライバーの視野をより広く照らします。 

難しい問題ほど、より独創的な解決策が必要

克服しなければならない技術的な壁の規模は非常に大きいものでした。プロジェクトが開始された当時、1つの LEDは標準発光面積が最大1mm x 1mmのチップでした。この寸法は、「マルチピクセル」ヘッドランプのコンセプトには大きすぎました。

しかし問題は、より小さなLED光源が必要なことに留まりませんでした。マルチピクセルヘッドランプには、ビームを制御するための新しい電子部品や、システムを構築するための新しいパッケージング技術や製造技術も必要となりました。そんな製品ができるなど、ほとんど想像もつきませんでした。しかし、種は蒔かれていました。

実際は、問題が完全に不可能に見えたため、技術者たちは、通常であれば極端すぎる、リスクが高すぎる、成功する見込みが薄いとしてすぐに否定されるような解決策を検討する必要に迫られました。開発作業は、概念実証として、4ピクセルのLEDから始まりました。しかし、これはチームのビジョンを反映したものではありませんでした。チームのアイデアは、数千のピクセルを含むヘッドランプの構築でした。

概念実証の4ピクセルとチームが考えていたマルチピクセルヘッドランプの間には大きな隔たりがありました。4ピクセルと数千ピクセルの差を埋めるために必要となる、膨大な開発努力とリスクをどのように正当化できるでしょうか。 

実際、市場の需要はチームに有利に動き始めていました。OSRAM OSTARヘッドランププラットフォームに搭載された20mm x 1mmチップで構成される最初の配光可変型(ADB)ヘッドランプが実用化され、始めは高級車に搭載されていましたが、夜間運転の安全性を向上できるため、コンパクトカーにまで広がりました。

しかし、単一のLEDチップを搭載したそれらのADBソリューションは、約100個のチップで物理的な限界に達することは明らかでした。チームの当初のビジョンを実現するためには、数万のピクセルが必要でした。この差を埋めるために、まったく新しいテクノロジーが必要なことは明白でした。

アイデアを現実のものへ:チーム一丸の努力

このとき、ドイツ政府から公的資金を投入したプロジェクトのオファーが舞い込みました。これは、産業界と科学界の貢献者で構成されるコンソーシアムを形成する機会となりました。

  • Daimler社:自動車OEM、システム要件の定義、ヘッドランプのテストと検証のアプリケーション環境提供
  • Hella社:ランプの設計とアセンブリ
  • OSRAM*社:LED、そしてLEDとIC、関連エレクトロニクスの統合
  • Infineon社:複数のLED「ピクセル」を制御できるLEDドライバの構築
  • Fraunhofer社:技術システムの統合

µAFS(マイクロアドバンスドフロントライトシステム)プロジェクトチームとして、これら企業からの技術者たちは2013年~2016年にかけて作業に取り組みました。光半導体テクノロジーの開発を担っていたOSRAMは、その野心的なマイクロLEDのコンセプト実現において、次を含む多くの問題に直面しました。
  • LEDから十分な光出力(輝度)を生み出す
  • LEDと蛍光体層でクロストークが発生し、LEDピクセル間で光が漏れる
  • マイクロLEDアレイ全体で色の一貫性を維持することが難しい

それでも、チームは解決策を見出すに至り、2016年にその努力の成果を発表しました。1,024ピクセルのマイクロLEDヘッドランプのコンセプトで、各ピクセルを個別に制御できるものです。これはエンジニアリングの驚くべき偉業であり、これまでに作られたものよりもはるかに小さいLED点光源を生み出しました。実際、このデモンストレーション設計には既存の技術がサポートできるLEDピクセルの10倍の数が含まれており、これがEVIYOS® 1.0の開発につながりました。
 

現在OSRAMは、 照明のパイオニアとして、このコンセプトをアイデアから概念実証に変え、そして製品開発につなげることにコミットしています。このエンジニアリングの挑戦は、ams OSRAMで働く人々を興奮させるものでした。経営陣から開発エンジニアリングチームまで、あらゆるレベルの人々が、交通の安全性を高め、運転をより快適で楽しいものにするマルチピクセルLEDヘッドランプの可能性を見て取ることができました。光の魔法を通じて、OSRAMは夜間の運転体験を変えることができるのです。

打ち砕かれた成功への期待

しかし天啓の時 – EVIYOS® 1.0のリリースは、勝利であると同時に大きな失望となりました。このピクセル化LEDから実際にヘッドランプを作る際、ヘッドランプメーカーは5つものマルチピクセルLEDが必要であり、それぞれが独自の光学系を備えていました。これでは製造に手間とコストがかかりすぎることは明白でした。OSRAMのチームが成し遂げたすべての貴重な技術的ブレークスルーにもかかわらず、その概念実証は商業的に実現可能な製品の基礎とはならなかったのです。

チームは振り出しに戻りました。そして課題はより困難なものになりました。自動車業界がダイナミック前照灯のアイデアにピクトグラム(安全警告や情報メッセージなど)を道路に投影する機能を含めることを決定したためです。それには、さらに多くのピクセルが必要になります。

µAFSの失望にも関わらず、OSRAMチームは希望を失いませんでした。実際、2018年には、μAFSプロジェクトチームが発表した論文から学んだLED市場の大手競合2社が、それぞれ独自の車載用マイクロLEDプロジェクターの開発に取り組んでいるというニュースに励まされました。競争は始まっていたのです!

そしてµAFSコンソーシアムを終了してから2年後となる今、OSRAMは決断の時を迎えました。撤退するか、この技術への投資を倍増するかの選択に直面したのです。 

OSRAMは常に、光技術のリーダーでありつづけていました。車載用照明における革新の歴史は有名です。それまでの光半導体技術におけるブレークスルーには常に勇気と粘り強さが必要とされてきましたが、これはマルチピクセルLEDも同じでした。そしてOSRAMは、この技術にコミットしました。さまざまな分野の専門家を集め、大幅に増強したチームで、商業的に実現可能な製品の開発に着手したのです。OSRAMとアナログ半導体メーカーamsの合併によってams OSRAMとなった後、チームはこのオーストリア企業の社内IC設計・製造の専門知識からも恩恵を受けました。

EVIYOS LEDの普及

新しいEVIYOS® LEDの生産には、さらに5年にわたるたゆまぬ研究開発の歳月を要しました。ams OSRAMは2023年までに、25,600ピクセルのLEDを1つのパッケージに格納し、各ピクセルを個別に制御するドライバICを完全に統合したEVIYOS®製品を発売する準備を整えました。EVIYOS® LEDは、マルチピクセルLEDテクノロジーに対する当初のビジョンを完全に実現しています。ビームを正確に制御し、対向車の乗員や道路脇の歩行者に眩しさを感じさせるビームをカットすることができる一方で、従来のハイビームよりも前方をさらに大きく、明るく照らす照射領域を提供することができます。 

また、高解像度のピクトグラムやテキストを前方の路面上に投影し、ドライバーに安全信号や役立つ情報を提供したり、自動車のユーザーに「ようこそ」や「お帰りなさい」などのブランド化したメッセージを伝えたりする新しい機能を提供することもできます。
 


そしてEVIYOS® LEDは商業的に実現可能な製品となっており、最初のヘッドライト製品が最近発表されています。

ビジョンが完全に実現されました。
すべての技術的なブレークスルーと同様に、EVIYOS®プロジェクトもその技術者たちに失望の挫折と勝利の喜びをもたらしました。その物語は、失望の谷を歩むスタミナがなければ、達成感の高みに到達することはできないということを示すものです。 

EVIYOS®プロジェクトは、企業が真の革新者となるためには、あらゆるレベルで長期的なコミットメント、戦略的な思考、粘り強さが必要とされることを示す明確な例です。経営陣からエンジニアリングチームまで、成功のためにはコミットメントとエンゲージメントが必要であり、挫折に直面しても信じて粘り強く取り組むことが必要です。これこそ、ams OSRAMが歩んできた道、そしてこれからも歩み続ける道です。

献辞:
半導体産業でビジョン実現のためにアイデアやエネルギー、心、そして魂を捧げたすべての人々へ

*OSRAMは、2021年3月に設立されたams OSRAMの一部です。
 

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